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スイス機械産業の伸長は、発達障害系引きこもりの助けとなるか?

ちょっと前の話で手元に記事が無いのですが、グランドセイコーやクレドールで有名なSEIKOが、水晶発振のクォーツ式時計や、先端技術を駆使した高機能時計の生産から、旧来型の手巻き・自動巻機械式時計の生産に力点をシフトするという記事を読んだことがあります。

所謂「クォーツショック」で、70年代にスイス機械式時計産業を壊滅に追い込み、世界を水晶発振時計で埋め尽くしたSEIKOでしたが、一見すると時代錯誤とも言えるこの経営判断を見るに、腕時計が実用品としての精度・機能性追求ではなく、装飾品としての美術・芸術性追求へと変わりつつある様を感じずにはいられませんでした。

確かに、世界経済に活気があるなら、単価1万円のSEIKO5を50個売るより、単価50万円のグランドセイコーを1個売った方が利幅も大きいのでしょう。SEIKOに市場を奪われた後、起死回生の生き残りをかけたスウォッチ・リシュモングループによるスイス時計界の再編が奏功し、ロレックスやパテックフィリップ、オーデマピゲ等の高級ブランドが、単価を上げながら利益を生み出している点からしても、潮流は寧ろそちらにあると言えます。周回差をつけて頂点に立ったのに、気がついたら最後尾についてしまった危機感がSEIKO経営陣の中にもあるのかも知れません。コモディティ化の悲劇と言えばそれまでですが、現実はそんなものなのでしょうか。

独自の高級ブランドに乏しいCITIZENが、スイスの中堅ブランドフレデリック・コンスタントを買収したという記事もありましたが、自社ブランドの育成か他社ブランドの運営かの違いがあるだけで、危機感の程度は同じだと思います。まだ、バッティングしにくいG-SHOCKを持つCASIOの方が、幾分気が楽かも知れません。

話を戻しましょう。微少量ではありますが、この「逆行」は、「ヒト付き合い」よりも「モノ付き合い」を好む職人的気質の引きこもり当事者にはプラスに働きます。無論、部分的に機械化が進み、全てただの手作業だけで、という訳には行きませんから、一定以上の教育水準は必要となりますが、それでも日々の仕事の形式としては相対的に心穏やかなものとなります。つまり、何らかの手工業従業員として生きていく方向です。

経験則上、一部の引きこもり当事者には、発達障害等の派生からか、特定の範囲で異様な集中力を発揮し、常人がなし得ないような成果を上げる人達がいることが分かっており、私も何度かその成果に驚かされたことがあります。CARPE・FIDEMにも、既にその方向性に舵を切って成功したり、手応えを感じ始めた卒業生もいますが、環境さえ整えば、その能力は現場での生産性向上に役立ちますし、優れているなら誰も何も文句を言うことは出来ません。特性を活かした天職にさえなり得ます。

元々、職人系の仕事には、人付き合いを好まない頑固な性質の「爺さん」がいたもので、当時はその概念が無かっただけで、手工業系の仕事には、元来今で言う過集中の発達障害系人材が適切だったのかも知れません。正に、適材適所の最たるものなわけですが、良くも悪しくも元の方向性に回帰したとも言えます。

菊野昌宏さんや浅岡肇さんのように独立時計師として活動されているケースもあり、生まれ持っての才覚と特殊能力がある場合には、そのような生き方もアリな気がします。(因みに、私はフィリップ・デュフォーのような、独立時計師による作品が大好きです。高くて全く手が出ませんが……。)

無論、不安定要因もあります。

確か、ネットの書き込みだったのでネタ扱いですが、ジラールペルゴの技術者が、消費者との対話か何の際に、

「無理な要望でも色々聞かせてくれ。もっとも、俺達の給料は安いけどなHAHAHA」

みたいな話があったそうで。言われてみればその通りで、高額な高級時計と言えど、その従業員が必ずしも高給取りとは限りません。実際、以下のデータを見るに、スイス時計産業界の給与中央値は全産業のそれを下回っており、本場スイスでさえ家内工業・工場制手工業的生産の限界が伺えます。

スイスの時計産業について知っておくべき六つのこと

また、一度壊滅した機械式時計が蘇ったにしても、その市場規模は決して大きくありません。スイス最盛期の輸出額でもせいぜい2兆5,000億円位しか無く、これは日本の化粧品国内市場規模程度でしかありません。市況が後退に向かえば、また昔のようなジリ貧を迫られるかも知れません。枠はあったにしても、多数の人間を養える程の規模はなく、あくまでドンピシャリ性質に適合し、活動自体が苦にならないような人達だけの話になるでしょう。

とは言え、既に上記手法で機能している部分もあり、成熟化した先進工業国が向かう先は何らかの有閑趣味でしょうから、これはこれで良い傾向ではないでしょうか。

以上の話題は腕時計に関するものですが、今後、同様の手仕事系への回帰傾向が他の産業分野でも派生する可能性があります。既に傾向が見られて、発展のあり得る分野としては、

腕時計(SEIKOクォーツ型→スイス機械式高級時計)

家具(ニトリ型大量生産家具→受注生産・古民具再生)

衣類(ユニクロ式ファストファッション→フルオーダー)

医療(保健診療→保険外診療)

教育(公教育→少人数式家庭教師教育)

音響(デジタル音源→レコード音源)

どれも産業規模としては小規模で、大規模なカバーは全く出来ませんが、全ての産業で同様の状況が発生すれば、総数としてはロングテール的に拡大する可能性は十分にあります。性質に適合する人は、一度検討してみても良いかも知れませんね。

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