不登校・引きこもりからの大学進学塾

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不登校・引きこもり雑感18

 何故か、今年は大学(院)卒の子達から、就職関係の相談がひっきりなしにやってきます。普段から顔を見せている子達もさることながら、しばらくご無沙汰していた子達まで、どういうわけか次々と。

 大体が、近場のレストランか何かで食事をしながら話を聞くのですが、聞いてる限り、かなり良いところに就職しているようで、所謂大手企業が次々と。別段、大きいから良いというわけでもありませんが、大体誰でも知ってそうな東証プライム企業が延々と続けば、なかなかに大したものだと言わざるえません。

 コミュニケーションに長けた一部の例外を除き、基本CARPEでは文系進学は推奨しておらず、ほぼ全員が理系進学を選んでいます。これは卒後の就職先を考えての判断でしたが、彼等の状況を見る限り、あいかわらずこれは上手く機能しているようです。良かった良かった。

 大学受験までは私も多々サポート出来ますが、いつまでも助けてあげられるわけでもありませんし、寧ろ助けて貰うことの方が増えてきました。加齢と共に役割の変化が発生するのは自然なこと。お声がかかるのもありがたいことと考え、今は彼等の成功をただ祝うことにしましょう。

不登校・引きこもりと就職事情 ~就職出来ない人達に足らない要素~

就職出来ない元引きこもりの原因について解説します。

何がパンクだ パンクロッカー(Oi! Oi! Oi! Oi!)
何がフリーだ アルバイター(Oi! Oi! Oi! Oi! Oi! Oi!)
サラリーマンはえらいのさ 脱サラしてもえらいのさ
就職したことあるからさ オレら就職できねぇもんなあ!

宮藤官九郎「就職しやがれ!」

 脱ヒキ後、すぐに就職出来る元引きこもりがいる一方、一見、条件が揃っているようで、全く就職出来ない元引きこもりもいます。

参照:内閣府「第3章 困難を有する子供・若者やその家族の支援(第2節)」

就職に繋がる5つの要件

 CARPE・FIDEMは大学進学塾ですが、同時に不登校・引きこもり当事者に対する支援組織でもあります。そのため、脱不登校や脱引きこもりは当然のことながら、進学に加えた安定的な就業環境までをセットにして初めて、その業務が完了したものと考えています。とりわけ、就業までの環境整備には注意を払っており、過去20年近く、必要と思われる卒後サポートを無償で実施してきました。

 その結果から、脱ヒキ後の就業&永続化のためには、以下5つの要件

1:頭が良い(豊富な知識 回転速度 ユーモア)
2:体力がある(筋力 持久力 稼働時間)
3:特殊な技能がある(器用 画才 歌唱力 第二外国語 IT知識)
4:コネがある(親類縁者の事業 有名校の先輩後輩繋がり)
5:気合がある(教えを請うことに抵抗が無い 負けてもめげない 元気で声が大きい)

のうち最低一つを満たしている必要があることが判明していますが、今回はその各要素を順番に解説し、現不登校・引きこもり当事者への助力としたいと思います。

1:頭が良い(豊富な知識 回転速度 ユーモア)と就職に有利

 「頭が良い」とは、所謂「頭脳労働」に関与する場合の必須要件で、5要件の中では、所得水準・生活の安定度が相対的に高くなる傾向があります。以前掲載した、不登校 引きこもり の原因とその対処実例 ~共感は本当に必要なのか?~における「挫折したエリートA~C」や「稀代の詐欺師」「気まぐれな変人」「平均的な天才」がこれに該当します。

 CARRPE・FIDEMでの過去の事例における「豊富な知識」とは、医学部や薬学部・獣医学部等、専門職系の学部に進学し、そこで養成された知識を活かして就職する等のルートを指します。「進学校に在籍していた経歴がある」or「先天的に高いIQを保持している」子達には特に有効で、長年の検証によりルートが確立されていることから、最も安定度の高い選択肢と言えます。一方、経済的要件を中心として事実上の年齢制限があり、30歳以降でこの選択を取れるケースは極めて稀です。

 「回転速度」はやや抽象的ですが、経験則的には、「情報処理速度が速い」「要点の把握が迅速である」「新概念の習得効率が良い」がそれに該当します。スコア化しやすい「豊富な知識」ルートと異なり、就職に際しての既定ルートはありませんが、後述する「4:コネがある」とのセットで、経営側から一本釣りされるケースが度々見受けられます。ESでの一括採用とは異なりますので、大学等の学歴は問われないことが多いですが、大多数が御三家や新御三家、或いはそれと同等の中・高校在籍歴を持っています。CARPE・FIDEM内部においては、何故か大手広告代理店子会社からの採用事例が多い点が特徴です。

 「ユーモア」は、しばしば話術に長けた面白い人がそれに該当し、特段の学歴や経歴、知識が無くとも、その存在自体が組織の円滑化に不可欠であることから、積極的に採用される傾向にあります。ただ、不登校・引きこもり業界では滅多に発生しない存在であると同時に、天賦の才覚と思しき事例が中心であるため、狙って選択することは事実上不可能です。今のところ、営業職に就くケースが多く、人材紹介関連とIT関連企業が半々となっています。

2:体力がある(筋力 持久力 稼働時間)と就職に有利

 「筋力がある」「持久力がある」「稼働時間が長い」は、文字通りの意味で、平均よりも体力面で優れていることを指します。消防士や警察官への進路が比較的分かりやすい事例で、他にも建設業界や一部のインフラ整備、介護職がそれに該当します。

 1と比較すると採用の間口が広く、折からの人材不足も相まって、2023年段階では最も無理の無い選択肢となっています。一方、業界によっては、特有の体育会系意識が色濃く残っているため、不登校・引きこもり経験者との親和性に一定の疑義が生じます。人材不足の結果、職場環境が緩やかに変化することで、親和性の向上に繋がる可能性は高いですが、基本的には体育会系の意識でスタートした方が失敗は少ないようです。また、公務員や一部インフラ関係を除き、給与や社会保障、勤務条件等の待遇面で劣ることが多いため、その点は割り引いて考える必要があります。

 一般論として、不登校・引きこもり経験者における有望な選択肢の一つではありますが、CARPE・FIDEM内部では、公務員と建設関連企業が目立つものの、塾の性質からして総数は多くありません。

3:特殊な技能がある(器用 画才 歌唱力 第二外国語 IT知識)と就職に有利

 「手先が器用」「画才が高い」「歌唱力がある」は文字通りの才能で、普通科高校ではなく、工業・農業高校や芸術高校に進学するタイプに多いケースです。以前掲載した、不登校 引きこもり の原因とその対処実例 ~共感は本当に必要なのか?~における「寡黙な昭和のエンジニア」「歌って踊れるITエンジニア」がこれに該当します。

 1のような汎用性のある学力は有していないものの、職人芸や伝統工芸等では優れた才覚を発揮し、他にも美術系大学を経由して、デザイン・アート分野での就業が確認されています。また、両親の海外赴任・国際結婚その他が原因で、緩やかなマルチリンガル化(最近は「日・英・中」が主流。)が進んでいる場合には、そこが就職のきっかけとなるケースもあります。マイナーな知識を活用して、YouTubeその他で情報発信をする事例も最近は増えてきました。比較的安定度が高いのがIT系で、2023年段階では極めて少数ですが、大学を経由せずとも、自主学習のみで仕事を受注するフリーランスがそれに該当します。

 一方、良くも悪しくも当たり外れが大きく、経験則的には1には遠く及ばず、2以上の待遇を確保出来る事例も多くありません。一般的なサラリーマンの平均年収(450万前後)を超えれば大成功と見て良いでしょう。YouTubeその他の情報発信系は、あくまで小遣い稼ぎレベルのものが大半で、本業となるのは例外的存在です。

 現段階で、ある程度の安定性を確保しているのは、

CARPE→国公立美術系学部 → SONY 博報堂 教員
工業高校中退→CARPE→大手メーカー
CARPE→フリーランスITエンジニア

他数例に限られていますが、本人の特殊技能を根拠としている事例が多いため、再現性も高くありません。本人の性格や特技と一致している場合に限り有効となる選択肢です。

4:コネがある(親類縁者の事業 有名校の先輩後輩繋がり)と就職に有利

 一般的には否定的に評価されがちな縁故採用ですが、不登校・引きこもり経験者にとっては、これが大きな武器となることがあります。

 主な縁故採用は、「親類縁者」「出身校繋がり」「地元繋がり」の三パターンが中心ですが、不登校・引きこもり関連で地元繋がりの縁故が利用出来る事例はほぼ存在しません。結果的に、比率としては親類縁者が80%、一流有名校などの出身校繋がりが20%前後となります。

 親類縁者による縁故採用は、その所有している事業によって異なりますが、基本的にはほぼ全て自営業や中小企業での採用となり、農業・町工場・建設関連・飲食関連が中心で、稀に会計やIT関連が混じります。失業の可能性が低い点が長所ですが、零細企業が多いため、給与水準は低い傾向にあります。

 逆に、出身校繋がりの縁故採用は、有名校関係者の枠を利用することが多い点に加え、1の「頭の回転が良い」の条件と併用されているためか、待遇面でもかなり恵まれているケースが散見されます。1でもある通り、CARPE・FIDEMにおいては、大手広告代理店子会社からの採用が多く、現段階で最も上手く進んだのが、麻布高校&電通子会社の事例です。

5:気合がある(教えを請うことに抵抗が無い 負けてもめげない 元気で声が大きい)と就職に有利

 上記1~4の要素全てが無かったとしても、「教えを請うことに抵抗が無い」という謙虚な姿勢、「負けてもめげない」というタフさがあれば、社会復帰の可能性はあります。

 何歳であろうと、どのような経歴であろうと、配置転換や技術革新その他の事情により、学び直しが必要となる局面は確実に存在します。従って、生きていれば「素直に他者から教えを請い、失敗を恐れない」が標準的な姿勢となりますが、この基本を押さえていれば、誰かしら救ってくれる人は出てきます。傲岸不遜で脆弱なだけの人間に生きる術は存在しませんが、その逆を突き詰めると、意外なところで突破口が見えて来ます。

 尚、上記とは全く関係ありませんが、この「気合」要素で地味に有効なのが「元気で声が大きい」で、この点は決して馬鹿にしてはいけません。実際に社会に出てみると分かりますが、何もインテリ気取りの頭脳労働ばかりが仕事では無く、周囲を鼓舞したり、ただ元気にするだけでも評価される世界があります。「人間もまた野生動物の一種である」と考えれば、頭を一切使わずとも、「とりあえず元気で声を張れる」ことの重要性は理解されるでしょう。頭は二の次で良いのです。

 5の要素は、1~4の要素と複合的に利用するのが本来の姿ですが、最終手段としては妥当な位置にあります。まずはアルバイト程度でも構いませんので、「とりあえずの第一歩」を開始しましょう。

 

 以上が、CARPE・FIDEMにおける就業&永続化の主要要件です。経験則的には、1~4のどれか一つを持ち、追加で5を持ち合わせていれば、ほぼ問題無いことが分かっています。再現性の高低は項目毎に差がありますが、一つの参考にしてみて下さい。

全てを持ち合わせていない人は就職出来ないのか?

 尚、「1~5全てを持ち合わせていない場合はどうしたら良いのか?」という質問が稀に来ますが、回答は一つ。「他人の邪魔をすることなく、ひっそり生きましょう」です。

 自分の人生をどの程度ハンドリング出来るかは、基本的に個々人の才覚に依存します。何の才覚も無く、ただ社会に翻弄されるだけの生き方もあり得ますし、別段それが悪いわけでもありません。ただ、自分が上手く行かないからと言って、嫉妬や劣等感に狂って他人の妨害を企図するのは絶対に止めましょう。あなたにはあなたの人生があるように、他の人にも彼等なりの人生があります。大金持ちになる必要もありませんし、高い身分を得る必要もありません。ただ、「自分のことは自分で対処し、極力人様の世話にならないようにする」という気持ちが最も大切です。アルバイトでも何でも構いませんので、最低限自分の食い扶持は自分で稼ぎ、周囲の迷惑にならない程度の謙虚な生き方を心掛けて下さい。

 残念なことに、不登校・引きこもり業界には、人権と弱者救済を錦の御旗にして生活保護を称揚し、「働かなくて何が悪い」と嘯く人々が支援者側にも存在します。ただ、彼等の大半は時代遅れの共産党・旧社会党関係者で、その主張が彼等の利益になるから語っているだけのこと。実際の当事者の利益とは無関係です。社会保障が細る今後の日本で、「働かなくても生活保護で」が通用しないこと位、少し考えれば分かると思います。

 安い思想に流されることなく、自分の人生は自分で切り拓く力強さを持って下さい。自分で切り拓くことの楽しさを知れば、彼等の主張がいかに薄っぺらで陳腐なものか理解出来るでしょう。他人から施しを受け、その削減に怯えながら生活している自分の姿を想像してみて下さい。そこに人間らしい尊厳などありはしません。どんなに貧しく、出来ることが少なくとも、自分で自分を支えているというその事実こそが、人間としての尊厳の源泉となります。

 今は、自由度の高い豊かで面白い時代です。折角の人生です。この時代の面白さを全力で享受することを積極的にお薦めします。

不登校 引きこもり→医学部受験組が気をつけていること ~英語編1~

受験英語の成長がピタリと止まる原因について説明します。

A period of rapid social and economic change is bound to be accompanied by confusion and doubt about existing values, institutions, and practices.  The inability of people to find satisfaction in accepted modes of behavior causes widespread questioning and searching examination.

「社会や経済が急激に変化する時代では、必然的に既存の価値や制度、慣習に対する混乱や疑義が伴うものである。従前の然るべき行動様式を人々が甘受出来ないがために、疑惑は広がり、徹底的な検証が加えられることになる」

大阪大学の入試問題より

 どういうわけか、共通テストで120~150点前後までは進むものの、その後ピッタリと成長が止まり、どれほど努力し時間をかけても、成績が微動だにしないどころか、寧ろ低下を招く気の毒な子達が少なからず存在します。

近年の英語出題動向

 他の科目同様、英語も2021年度からセンター試験と入れ替わる形で共通テストがスタートしました。変更点は多々ありますが、ハイライトは以下の二点、即ち、

1:アクセント・文法・整序英作が廃止され、リーディングとリスニングのみに
2:リーディング:リスニング=1:1の配点比率に

と見て大筋問題無いでしょう。

 賛否はありますが、個人的にはこの変更は好ましいことだと考えています。アクセント問題については、兼ねてより指導側・学生側問わず批判の対象になっており、仮に東大理三受験生でも、コスパの観点からほぼ放置(運が良ければ満点、多少外しても196~198)になっていましたし、文法についても、一部に時代遅れの問題が出題されるなど、実情にそぐわない状況が続いていました。読解の総量を増やすと同時にリスニング比率も上昇し、学習スタンスがより実用的な方向にスライドしたのも、学生の社会人後の実用を見据えての設定と思われ、制作者側の誠意と熱意が読み取れます。

後になってから判明する英語力格差

 一方、時を同じくして「中堅層の学生が上位層に食い込めない」というトラブルが散見されるようになりました。かつては、「中堅国公立理工系やMARCHレベルが確保出来たので、ちょっと頑張って東大や東工大、医学部や早慶を狙ってみる」のような話は特に珍しくも無かったのですが、最近は少なからぬ受験生の間で、この2者間に目に見えない大きな壁が発生しています。特に、共通テストの英語が150前後を上限に全く動かなくなると同時に、2次試験でも上位層への階級上げが遅々として進まないケースが度々見られ、中堅層にとって大きな負担になっています。

 意外なことかも知れませんが、この変化を生み出した最大の原因を探ってみると、他ならぬ新形式の共通テストに行き着きます。一見すると、時代に即した好ましい変化をもたらしたかに見える共通テストですが、想定しなかった場所で想像以上の事態が発生している現状を鑑みるに、これはこれで何らかの問題を内包している可能性があります。

 一体、共通テストの何が問題だったのか? それを知るためには、まず英語の主要カテゴリと、各カテゴリ毎の上位層スコア格差について理解する必要があります。

英語試験の主なカテゴリと差のつくポイント

 一部の特殊な大学・学部を除き、現在の大学入試は、

1:英語の基本構造を学ぶ「英文法」(ほぼ差がつかない)
2:1の英文法を利用して、英語を日本語に翻訳する「英文和訳」(差がつく)
3:2の英文和訳を平易な長文にして読み進める「長文読解」(ほぼ差がつかない)
4:3の長文読解を音声認識で処理する「リスニング」(差がつく)
5:1の英文法を利用して、日本語やデータを英語に翻訳する「和文英訳(英作文)」(大きく差がつく)

の5形式に分類されます。( )の部分は、上位層に属する受験生間でのスコア格差を表しています。相互の関係性をもう少し細かくまとめると、大筋以下のようになります。

 図を見ると分かるように、1の「英文法」は全ての中核であり、そこから段階的に上位互換の形式を生み出しています。一般的な進学校の中学段階で英文法が優先されるのは、英文法が全ての形式のコアであり、この点が揺らぐと、後詰めの発展的形式が足場から瓦解するためです。

 次に、上位層の各カテゴリ毎のスコア格差を見てみましょう。決定的に差がつくのは5の「和文英訳」で、これは特に医学部受験では常識です。次が2の「英文和訳」、4の「リスニング」と続き、1の「英文法」と3の「読解」は、分量や存在感の割に格差は発生していません。ただ、これには上位層特有の事情があります。

英語上位層のスコア獲得状況

 平均的な理系上位層の学生は、基本的な文法事項を中学時代から手堅く学習しているため、標準的な英文法で差がつくことはありません。逆に、早慶の文系学部で出されるようなキワモノ系英文法は、学習上のコスパが悪いことから、わざわざ着手する子がおらず(数学の方が遙かに効率が良い)ほぼ全員が放棄するため、こちらも差がつきません。読解については、難易度が高くとも低くとも、上位層ではほぼ全員がそこそこ無理なく解釈し、大きく外すような箇所も乏しい(外すときは全員外す)ため、差がつきません。

 他方の英文和訳は、英文法や基本的な構文の知識を入れただけではダメで、名詞構文や無生物主語、倒置・省略の処理方法、そして何より「副詞(句・節等広義のもの全て含む)」という大きな山場を越えなくてはなりません。結果、どうしても添削の必要性が出てくるのですが、この添削の総数がスコアと大まかに比例するため、特に難易度が上がると少なからぬ程度で差が開きます。リスニングはまた別の理由があり、出題する大学としない大学とでバラツキがあることから、仮に医学部と言えど、早期から対策を行っている子と後手後手に回った子とでは必然的に差がつきます。

 そして最後の英作文。これは英文法の完全な上位互換で、中学1年から高校3年まで、基本的な文法はほぼ穴無く確保していることが大前提の上、指定型英作に自由英作、図表の読み取りにそれぞれの表現方法と、非常に幅広い対策が求められます。しかも、その上で記述が適切かチェックするための添削が必要となりますので、英文和訳以上の負担感があります。(無論、スペルミスも許されません。)結果的に、上位層でも決定的な差がつくことになります。

 つまり、上位層で差がつくのは、英文法を基盤とした「英文和訳」と「和文英訳」、読解系学習最終段階で、到達までに時間のかかる「リスニング」の3項目が中核であり、英文法で大きな穴のある学生には、最初から勝ちの目がありません。

共通テスト英語での実情

 一方、現在の共通テストで出題されている形式は、3の長文読解と4のリスニングのみで、1の英文法や2の英文和訳,5の和文英訳はそもそも最初から存在しないため、上記のような上位層格差は発生しにくくなっています。無論、3も4も1と2をベースとしており、全くの無知なら3も4もままならないのは事実ですので、3と4内部に1や2を内包し、直接問うことはせずとも、間接的に評価していると考えれば、特段無茶なこととも言えません。ただ、最低限「誤読」でない程度の読解が出来れば、厳密な学習は必要とされず、「何となく学習していても、何となく点になってしまう」設計になっているのは事実でしょう。

 しかしこの結果、大半の中堅層の学生は文法を軽んじるようになり、即席的な長文読解とリスニングに学習を傾斜させました。無論、この傾斜が後の絶望を生むとは、知る由もなく。

中学一年から発生する英語力の分岐

 簡単なサンプルを出してみましょう。以下の文章を読み、日本語に変換してみて下さい。内容は中学一年の問題で、特に難しいものはありません。

6:The train for Kyoto leaves Tokyo at noon.

 ここでのテーマは、形容詞として機能する前置詞句です。一般に、副詞として機能する前置詞句は、事細かに修飾ー被修飾関係を考える必要はなく、寧ろ下手に考え始めると、重要な形容詞→名詞の修飾関係が疎かになるため、私は推奨しないようにしています。(これは、副詞句・節を含む副詞全般に言えることですが。)

 正しい訳と文章の構成は、以下のようになります。(訳の順序は○番と記載しています。)

7:「京都行きのその電車は、正午に東京駅を出発します」

 形容詞と名詞は、前置にせよ後置にせよ、特殊なケースを除いて「形容詞(先)→名詞(後)」の訳順になります。その後は、Sに続き、文章の後方から順に訳すのが基本となります。余程おかしな構成で無い限り、この手順でほぼ無理の無い日本語が生成されます。

 一方、文法がぞんざいになっている学生に同じ質問をすると、大筋以下のような回答が来ます。

8:「その電車は正午に東京を出発して、京都に向かいます」

 この回答は、大意としては間違ってはいないのですが、恐らく形容詞→名詞の修飾が読み取れないまま、「Sの次は文章の後方から訳す」という中学生時代の流れをそのまま踏襲しているものと考えられます。そこそこ読解力がある子でも散見されるパターンですが、文型の概念があるだけ、まだ救いようがあります。

9:「その電車は京都に向かって、正午に東京を出発します」

 この回答も、大意としては間違っていないのですが、とりあえず主語は理解しているものの修飾関係が分からず、8と同様に前置詞のforを動詞っぽく繕って、何となくそれっぽい訳にしたパターンです。こちらも頻度が高めです。

10:「その電車は京都を出発して、東京へ正午に行きます」

 この回答は確実に0点で、そもそも事実関係からして合っていません。推察では、それぞれの単語を日本語にバラバラに変換し、想定されうる「あり得そうなシチュエーション」を頭で想起し、それらしい日本語にしたパターンですが、全く意味の無い最悪のタイプです。所謂「英語がダメな子」の大多数が、この形態を取っています。

手堅い英文法力の上位層と揺らぐ中堅層

 上記の例を踏まえた上での経験則ですが、東大や医学部、早慶他上位層の群に食い込む子達を見ていると、特殊な事例を除いてほぼ確実に7の回答を手堅く出して来て、8~10のパターンに陥るケースはまず見ません。恐らく、彼等は中学時代から基本的な文法の学習を反復しており、訳の定石が徹底的にすり込まれているため、定石ピッタリのケースでは他の訳など最初から浮かびようがないのでしょう。

 一方、地方国公立やMARCHレベルになると、8、9のケースが目に見えて増えてきます。大意としては間違って無いものの、定石の手順が疎かになっているため、スコア面で一段階劣勢になります。とりあえず意味が取れていれば問題無い共通テストでは表面化しませんが、厳密な英文和訳が求められる国公立の上位群に挑むようになると、途端に成績が下がり、地方国公立やMARCHレベルで頭打ちになります。

 尚、それ以下の群になると、10のケースが特に珍しくも無く、中学一年のレベルでさえ完全な誤読が混じり始めます。この群に転落している場合、一度中学生のレベルに立ち返り、基礎の反復練習を行った方が遙かに効果的です。

 今回の例は中学一年で学ぶシンプルで簡単な例ですが、似たような課題が全ての学年で雑多に発生し続けるため、最終的には途方も無い格差が生み出されます。

全ての努力が無に帰す、恐怖の「フィーリング英文読解」

 これまでの指導経験から、私はこの8~10を「フィーリング読解」(特に法則も手順も無く、何となく日本語の対訳をそれっぽく繋げて解釈している「お気持ちだけ」の読解)として、指導の際に強く戒めています。とりわけ10は最低の状態で、どれほど努力を続けても一向に成果が出ず、学習自体が無意味です。この状態を維持したままの学習なら、寧ろやらないで遊んでいた方がまだ有意義でしょう。

 話を戻しましょう。2021年度の共通テストから、この「フィーリング読解」にハマった結果、地方国公立・MARCHレベルで成長が止まり、その上に上がれなくなる子達が明白に増加しました。センター試験の時代では文法での問いかけが存在したため、最低限の文法意識も残っていたのですが、最近はそれが目に見えて減少し、酷いケースになると、指導側が「多読・速読」を理由に、雑な読みを積極的に推奨することがあるようで、結果、多少の修正で成長を取り戻せるはずのレベルの子達でも、驚くほど成果が出なくなりました。

 以下は、彼等に対してヒアリングを行った結果ですが、このトラップにかかるまでの経緯は至ってシンプルです。

11:共通テストは読解中心なので、中学段階での文法学習が疎かになり、「とりあえず意味が大体取れていればOK」が常態化する(この段階でかなりの誤読が混じる)
12:そこそこ勘の良い子は、それでも多少はスコアになるため、単語だけを学習し、それらしいフィーリング読解を続けたまま大学受験を迎える
13:しかし、フィーリングでも何とかなるのは地方国公立・MARCHレベルまでで、そこから先は厳密性が要求される点に気付く
14:一方、英文法の基礎学習をほぼやっていないため、補足での対処が出来ず、同時に共通ではそこそこのスコアが取れるため、学習方針の転換に前向きになれない
15:結果的に、上位層へ食い込むことは諦め、地方国公立・MARCHレベルで受験を迎える

 彼等の話を聞いていると、これは試験システムと指導側の都合に踊らされただけの気の毒な結果でしか無い現実に至るのですが、修正は容易ではありません。10のように、壊滅的に理解していないケースなら、まだ「本当に最初から徹底的に復習しましょう」と提案して再起も促しやすい(実際に必要な期間はせいぜい半年前後)のですが、8や9のタイプはなまじ理解が進んでいるが故に、「本当に最初から徹底的に復習しましょう」と言われても提案に乗る子は半数もいません。期間としては三ヶ月も必要無いのですが、これまでの中途半端な成功体験が、再生学習に二の足を踏ませるのです。

英語力要請の暫定的総括

 以上のように、上位層と中堅層は、文法学習に対する意識に決定的な差があります。前者は、試験システムがどうあれ、過去重要とされてきた項目を愚直に学び続けた一方、後者は表層的な試験システムの変更に付和雷同し、要諦を放棄してお手軽な成果に飛びついた。後者が前者に歯が立たないのは、言うまでも無いことでしょう。

 センター試験の時代は、文法学習のベースが最低限維持されていたため、そこを足掛かりにして、中堅層から上位層へのアップグレードが比較的容易でした。しかし、共通テスト以降、文法学習のベースは時代遅れの産物とされ、目先のスコアを追うがあまり、上位層に進む足掛かりを放棄する例が増えました。安易な放棄は、本来ならより高いポジションに立てる子達からその可能性を奪い、格差の固定化を助長するに至りましたが、恐らくこの傾向は今後も続くでしょう。

 不登校 引きこもり業界でも、長期化して破綻しているのは、大半が後者のような浅はかな発想に飛びついたケースです。大した才覚も無いにもかかわらず、他人からの助言を見下し、上っ面だけの利益に飛びついて死を早めた引きこもりは、特に珍しい存在でもありません。浅はかな思考は学習にも表れますし、長じては、その人生観にも繋がってきます。

 特異的な才覚を持ち合わせた天才は別にして、せいぜい凡百の秀才止まりを自認しているなら、偉大な先人の知恵を有効活用する以外に勝ちはあり得ません。システムがどう変化しようとも、歴史の試練に耐えた成果は、素直に吸収するのが利口というものですし、自分だけでなし得た評価など、所詮高が知れています。手遅れになる前に、謙虚な姿勢で基本に立ち返るようにしましょう。

 では、具体的にどのような形で学習の誤りを修正すれば良いのでしょうか? 次回は、それをテーマとし、停滞に悩む子達への一助としたいと思います。

参考:「不登校 引きこもり→医学部受験組が気をつけていること ~数学編~

不登校 ・引きこもりツイート再掲載(マイルド不登校関連)

マイルド不登校に関する寸感です。

 不登校 ・引きこもり 関連の相談が増え過ぎて、個別の対処が難しいケースが増えてきました。ここ最近は、どう見てもメディアや不登校新聞に踊らされただけの「マイルド不登校」(特に理由も無いのに不登校になっているケース)が過半数を占めており、CARPEの本業を圧迫気味です。

 そこで、過去のツイートで再利用出来そうなものを抽出して掲載することにしました。相談の前に、一度ご確認をお願いします。

参照:「マイルド不登校」雑考

 要点だけ先にまとめると、

1:いじめ・学級崩壊・家庭崩壊・病気以外の理由で不登校を選択するのは止めましょう。該当しないなら、多少無理してでも黙って学校に行きなさい。その方が最終的には得です。

2:「不登校でも大丈夫」はほぼ嘘。実際は、社会に出るときのハードルが上がるだけです。

3:現実的には、不登校で人生が好転するケースは10%程度で、他はただ落ちているだけです。

4:親御さん側は、十分に子供の話を聞いた上で、1に該当しないなら「学校へ行け」と言う勇気を持ちましょう。

5:「不登校でも大丈夫」と主張する団体・組織とその親会社(場合によっては政党)を精査してみて下さい。大半が、不登校が増えると儲かる人々です。

6:大多数の通信制は、高卒資格を「買う」ことが目的になっており、実際の学力はつきません。

7:通信制で上位の大学に進学してる子は、ほぼ全て元々有名進学校出身か、進学塾・予備校に通って合格しただけです。

8:不登校は想像以上に体力を奪います。成長期に運動しないことの意味を考えて下さい。

9:中堅高校以下の高校生が不登校になると、その後の挽回はかなり難しくなります。最も条件の良い高校推薦での就職が消滅するためです。(詳しくは、マイホームアフロ田中でも読んで下さい。)

10:社会は有能に優しく、無能に厳しいです。どのような理由であれ、不登校は確実に無能に向かいますので、有能化の見通し無しに継続してはいけません。

不登校・引きこもりの原因とその対処実例 ~共感は本当に必要なのか?~

不登校・引きこもりの類型と対策について解説します。

「役場(?)の福祉の人間が家に来たときは、そいつらと親にマジで殺意沸いた。
『お前、勝手に俺を弱者扱いしてんじゃねえよ、殺すぞ』と」

とある飲み会での一幕

 至って当然のことですが、目先の日常が順調に進んでいるにもかかわらず、わざわざ狙って塞ぎ込む人は、世界広しと言えどほぼ存在しません。

特に必要とはされない不登校・引きこもりへの「共感」

 CARPE・FIDEMは、かれこれ20年近く不登校・ 引きこもり 経験者に対して総合的な支援を継続してきましたが、経験則ながら、ほぼ確実に言えることがあります。

「不登校・引きこもりは、周囲からの要求を満たせない者から発生しやすく、要求を満たすだけの十分な能力が確保出来て初めて、恒久的に解消される」

 つまり、学校なり会社なり、社会から要請される最低限の能力下限値というものが各所に存在し、それ以上の人間は不登校にも引きこもりにもなりにくいが、下限値以下の人間は不登校・引きこもりになりやすい、ということです。

 考えてみれば当然のことで、頭も良く、話も巧みで容姿にも恵まれ、家庭も温和で学校も楽しく通っている子が、ある日突然不登校になるケースは極めて稀です。10~20代の青年期の場合、自我の確立の過程で小さなトラブルがあって、一時的に塞ぎ込むことは誰にでもありますが、仮にその場合でも、条件が良い程改善確率は上がります。

 また、家族や学校からの要求が緩く、進学や就職への制限が少ない家庭では、不登校・引きこもりも発生しにくいですが、過剰な教育熱で、進路先を厳しく限定するような家庭では、不登校・引きこもりの発生率も必然的に増加します。要は、「家庭や社会から与えられた要求を、子供が満たせるかどうか」が、全ての鍵となります。

 よって、巷間流布著しい「不登校・引きこもりへの理解がある」「不登校・引きこもり経験者へ共感力が必要」といった言説は寧ろどうでも良く、仮に支援者側が当事者に全く共感を示さなくとも、欠損した能力の向上を最優先課題として、抱える問題にプラクティカルに対処するなら、最終的な改善率は遙かに高くなります。共感が無用とは言いませんが、共感の持つ力は、改善における実情としては微々たるものである現実を忘れてはいけません。陳腐な共感や馴れ合いを求め、手遅れになった長期高齢引きこもりは、もはやゴマンと存在するのですから。

不登校・引きこもりの改善に関する具体的要素

 では、具体的にどのような要素が、人を不登校・引きこもりへと誘うのでしょうか? ここでは、その主要要素を紹介し、いくつかの具体例を紹介しながら、現実的な解決策を提示することにしましょう。要素は、とりわけ現場で表面化しやすい「基礎学力」「対人関係」「基礎体力」「容姿」「家庭環境」「教育環境」「青年期の課題」の7要素に分類して評価しています。

 具体例は、当人の許可を得ているか、或いは実際に存在した複数名の実例を個人が特定されないレベルに抽象化してありますが、実用には耐える程度のものを使用しています。また、各要素の評価基準については、冗長になるため文尾に記載してあります。予めご了承下さい。

具体例1「挫折したエリートA」

「挫折したエリートA」CARPE・FIDEM参加前後のレーダーチャート

経緯

「挫折したエリートA」は、先天的に高いIQを誇っていたものの、劣悪な家庭環境が祟り、教育水準も低調な状態が続いていた。教育環境下にいた期間は極めて短く、それがために基礎体力の不足にも長期間悩まされた。知能は高い一方で、人とのコミュニケーションは積極的ではなく、限定的な付き合いしか好まない孤高さがある。

対処

「挫折したエリートA」に必要なのは、同程度の教育水準と知能を持ち合わせる集団との会合であり、本人もそれを望んだことから、とある国公立大学の医学部医学科に進学した。大学進学後の困難を想定し、CARPE・FIDEM在籍時には、基礎学力の養成だけでなく、最低限の友人関係構築の手助けを行った。また、同タイプにありがちな青年期の課題問題は、特に際立った対処はしていないものの、教育水準の上昇と平行して改善され、概ね問題無い水準に至った。

現在

 大学を卒業した後に結婚し、現在は勤務医として業務にあたっている。

具体例2「挫折したエリートB」

「挫折したエリートB」CARPE・FIDEM参加前後のレーダーチャート

経緯

「挫折したエリートB」は、地域の名家の生まれであり、親族は地主以外にも多様な専門職に従事しつつ、名望家として代々評価されていた。本人もそれに漏れず、一流有名中学に進学するが、親との関係悪化に加え、過大な自意識に悩まされて高校を中退した。

対処

 挫折の原因が家庭環境と当人の自意識に集約されているため、学力の養成は最低限に留め、自主管理を旨とした。支援側の主立った業務は、複雑に絡み合った家庭環境の再構築と、当人の抱える自意識過剰の低減を中核とし、上記2点の改善を見てから大学進学へ駒を進めた。最終的には、国立大学医学部を含め、多数の私立大学医学部に合格した。

現在

 私立大学医学部に在籍し、最上位の成績を上げている。また、同業の親族との関係も改善し、かつてからは想像も出来ない程に自立している。

具体例3:「挫折したエリートC」

「挫折したエリートC」CARPE・FIDEM参加前後のレーダーチャート

経緯

「挫折したエリートC」が、何故CARPE・FIDEMに来たのかは定かではないが、推察では統合失調症発症後の社会復帰活動の一環だった可能性が高い。少なくとも、参加段階では天才的閃きは無いが、オールラウンドに活動出来る安定性に加え、目立った問題も無く、友人関係も円滑であった。ただ一つだけ、「裏切る自分」に悩まされていた。

対処

 本来なら医師の仕事だったのだが、「大きな問題は解決したから」と、本人が強く拒否したため、在籍時は改善までの「時間稼ぎ」を旨とした。判断は正しかったようで、「裏切る自分」は段階的に鳴りを潜め、普通の学生へと回帰した。年齢のこともあり、進路先は医療系の専門職を薦めたが、本人の希望を優先して理工系学部を選択した。東工大と慶應義塾大学、早稲田大学その他に合格したものの、何故か東工大ではなく、慶應に進学した。理由を聞いたところ、「彼女が欲しいから」と回答した。

現在

 大手外資系企業に勤務し、結婚して二人の子供がいる。日本にいる時間よりも、海外にいる時間の方が長い点を嘆いている。

具体例4:「稀代の詐欺師」

「稀代の詐欺師」CARPE・FIDEM参加前後のレーダーチャート

経緯

「稀代の詐欺師」は、注意を要する人物であり、上記チャートのみでは測れない要素が多分に存在する。甘いマスクと巧みな話術、そして無尽蔵にも見える体力を持つ、典型的な人たらし。名門中学出身で、天性の才能としか思えない当意即妙を持ち合わせているが、正当な方向に活用しようとはせず、何かを「欺く」ときに、その真価が遺憾なく発揮される。発揮され過ぎた結果、学校に居場所が無くなり、不登校に至る。

対処

 愚かではあるが憎めない性格故、学力養成や家族関係の改善等の根本的な対策は早々に諦め、その才覚が活用出来る分野への斡旋を行うことにした。ただ、最低限の社会常識や道徳に対する意識は必要であるため、その点のみに注力した。

現在

 大手広告代理店の営業職として勤務している。結婚し、現在一児の父。

具体例5:「寡黙な昭和のエンジニア」

「寡黙な昭和のエンジニア」CARPE・FIDEM参加前後のレーダーチャート

経緯

 生来、好奇心の範囲が狭いためか友人も少なく、寂しい幼少期を過ごした。小学校まではギリギリ通ったものの、中学からは完全に適応困難に陥り、家に引きこもる。機械いじりが好きで、中学段階では金属加工した簡単な機械を自作出来たが、評価者はほぼ存在しなかった。現状の変更を求め、CARPE・FIDEMにやって来た。

対処

「寡黙な昭和のエンジニア」は、管理職たるオールラウンダーとしてはあまりに脆弱で無能力だが、本人の関心が及ぶ狭い世界には、人並み外れた才覚を示す。関心が狭過ぎるが故に、標準的な学校教育には適合しないことが多く、改善の見込みも乏しい。そのため、成長の見込めない範囲は必要最低限を残して切り捨て、関心のあるエリアへ教育資源の大多数を投入した。長期間にわたる話合いの結果、建築分野に活路を見出し、地方国公立大学の工学部建築学科に進学した。

現在

 地方国公立大学の大学院生であり、院に入る前には、当該分野におけるいくつかの賞を獲得しており、最優秀賞も受賞している。女性関係に乏しい点が現在の悩みで、彼等なりに努力はしている様子が見受けられる。

参照:「スイス機械産業の伸長は、発達障害系引きこもりの助けとなるか?

具体例6:「気まぐれな変人」

「気まぐれな変人」CARPE・FIDEM参加前後のレーダーチャート

経緯

 教育熱心な家庭で育てられたが、どこか掴み所の無い子供で、両親も困惑することが多かった。親の薦めで名門私立高校に進学したものの、反抗期が始まるや即座に中退し、家族に暴力を振るうようになる。その後、本人が「俺ココ(CARPE・FIDEM)に行く」と親に宣言し、勝手に申し込みを行うが、当の本人がおらず、出席しても教室に隅で壁に向かって小さくなっていた。

対処

 典型的な「変人」だったため、当人の才覚を把握すべく、暫く放置して様子を見た。話の出来る友人が増えるに従い、常人ならざるユーモアの持ち主であることが発覚したが、進路先の選定には難儀した。理由も無く教室で激昂し、叱責されると泣き出すこともあった。「周囲の友人が医学部進学を希望していた」という理由だけで本人も医学部を受験し、地方国公立大の医学部に合格した。

現在

 医学部入学直後から、「これは失敗した! 騙された!」と話す相変わらずの変人っぷりだったが、無事卒業して医師として勤務している。ただ、医療には全く関心が無いようで、早々に転職を考えている様子。今となっては、その変人気質が人から好かれるようにもなり、平穏無事に暮らしている。学生時代から再会する度に彼女が変わり、体重と容姿が乱高下している。

具体例7:「平均的な天才」

「平均的な天才」CARPE・FIDEM参加前後のレーダーチャート

経緯

 幼少期より、理数系科目について驚異的な才覚を持っていたが、家庭や学校からは特段の対応も無く、寧ろ進学先は平凡な中堅校だった。周囲との噛み合わなさが原因で高校を中退し、高校認定取得後に地方国公立大学に進学するがそこでも同様の事態が発生し、CARPE・FIDEMへやって来た。

対処

 参加段階で、既に大多数の医学部がA判定と、高いスコアを確保していたため、学習指導は基礎学力の不足部分の補足のみに留めた。東大の入試問題を目算だけで解く等、類い希な才能を持っていたが、当人は特に気にする様子も無かった。その後、駿台の東大模試で理三A判定を取り、成績優秀者となるが、実際の出願は一段階落として受験している。国公立大医学部他、上位の私立大医学部にも複数合格した。

現在

 医師としての人生は一つの「滑り止め」と考えていたようで、国家試験合格後は、IT関係職への転身を考えている様子。

具体例8:「歌って踊れるITエンジニア」

「歌って踊れるITエンジニア」CARPE・FIDEM参加前後のレーダーチャート

経緯

 生まれながら容姿に恵まれ、当人もそれを自覚していたが、特に鼻にかけることもなく、寧ろそれ以外の部分での才覚不足に悩んでいた。家庭環境の悪化と教育環境が原因で高校を中退。大手通信高校に入学するも、提供される学習水準の低さを理由として、CARPE・FIDEMに転身した。

対処

 容姿を活かす方向を模索していたが、本人も親も「水もの商売」への忌避感が強く、手堅い職を求めていた。本人の関心と時代の方向性を含め、国公立大学情報系学部へ進学した。入学と同時に、ファッションモデルのオーディションを受けたところ、副業として活用する程度のレベルに達した。また、歌唱力も同程度に評価されるに至った。

現在

 恋人にも恵まれたこともあり、「水もの」は大学生時代のみに限定し、あくまで手堅い生き方を模索する模様。

具体例9:「生まれたての子鹿」

「生まれたての子鹿」CARPE・FIDEM参加前後のレーダーチャート

経緯

 家庭にも学校にも友人関係にもバランス良く恵まれ、当人にも何ら問題らしい問題も無く、平穏な日々を過ごせたはずの人生だったが、「致命的に体力が無い」というただ1点の欠点のために、高校から不登校に陥った。

対処

 CARPE・FIDEMに来た際には、周囲から「本人の気力が無い」「意志が弱い」「目標意識に乏しい」と評価されており、本人もそのように自覚していた。親御さんからは「精神を鍛え直して欲しい」との要望が上がっていた。一方、暫く日常生活を観察していたところ、本源的問題は別にあるのではないかと推察される場面に度々遭遇したため、学力養成は一時停止し、半年にわたり、基礎体力の養成(主にマラソンと筋トレ)と食生活の見直し(炭水化物中心→蛋白質中心)を最優先課題とした。

現在

 体力の向上に比例して、「本人の気力が無い」「意志が弱い」「目標意識に乏しい」の全てが改善し、CARPE・FIDEMの籍は残したまま、在籍していた高校に復帰した。表面的に見られる課題は、ほぼ全て体力不足をその根源としており、個別対処の必要は無かった。

 

(注)以下は、レーダーチャートにおける、大雑把な評価基準になります。

「基礎学力」

 当実例内での「基礎学力」とは、一般的な高校生が要求される、高等学校における教育水準の程度を表しています。所謂IQとの厳密な関連性はありませんが、各カテゴリに該当する高等学校在籍生の平均的知能指数は参考にしています。

1:基本的な読み書き計算に致命的な支障がある。
2:小学生程度の基本的な読み書き計算は行える。
3:表面的には見えないが、基礎学力に問題がある。
4:基礎学力に問題はあるが、改善し得る。
5:最低レベルの大学受験(所謂Fラン大学ではない)が可能である。
6:平均的な大学受験が可能である。(日東駒専他)
7:中堅進学校の中堅層(地方国公立大学・GMARCH他)
8:中堅進学校の上位層(上位地方国公立・上智大・東京理科大他)
9:上位進学校の中堅層(上位私大医学部・中堅国公立医学部・早慶・地方帝大他)
10:上位進学校の最優秀層(東大・京大・国公立医学部の最上位層)

「対人関係」

 当実例内での「対人関係」とは、主に日常生活における人付き合いの円滑度を表しています。対象は家庭外の第三者を想定しており、家族との関係は含まれません。

1:第三者とのコミュニケーションは一切取れない。
2:当人が認めた第三者に対してのみ、極めて限定的なやり取りを行う。
3:最低限の対話は可能だが、当人が積極的に行うことはない。
4:基本的なコミュニケーションは可能だが、苦手意識がある。
5:平均的なやり取りが無理なく行える。
6:同系統の人間とは円滑だが、逆のタイプは敬遠することが多い。
7:親密な友人がおり、相容れない人間でも拒否することはない。
8:大筋誰とでも対話が可能で、他者を引っ張ることが出来る。
9:真逆のタイプの人間からも、好意的評価を受けることが多い。
10:性別・年齢・社会的地位その他の別無く、ほぼ全ての人々から高く評価されている。

「基礎体力」

 当実例内での「基礎体力」とは、主に日常生活で必要となる基礎体力を基盤とし、それに加えた+αの才覚がどの程度維持されているかを表しています。

1:身体の維持が困難で、ほぼ寝たきりに近く、入院生活が前提である。
2:最低限の起立は可能だが、横臥している時間の方が長い。
3:長時間の連続的活動は不可能だが、最低限の外出は出来る。
4:平日の通学や通勤に支障があり、連日通うことが出来ない。
5:平日の通勤・通学は人並みに出来るが、休日はゆっくり休みたい。
6:平日の通勤・通学は問題無く、休日も多少の外出は行う。
7:平均的な活動に支障は無く、体力面でも人より自信がある。
8:体力面で困難を感じたことも無く、体を動かす活動は積極的に行っている。
9:体力に加え、運動神経も優れており、過去に大会その他で評価されている。
10:ほぼ病気知らずな上、アスリート活動で現在も評価され続けている。

「容姿」

 当実例内での「容姿」とは、主に第三者視点からの外観的評価の程度を表しています。容貌や身長等、一般的に評価の基準に入るものに加え、ファッションセンスや体重等、変更可能なその他の要素も抽象的に加味しています。ただ、主観的要素が多分に入ることから、厳密な評価は不可能で、その点を前提としてご利用下さい。

1:学齢期から現在に至るまで、容姿で評価されたことはほぼ無い。
2:過去容姿で評価されたことは無いが、本人の改善意識がある。
3:容姿での評価経験に乏しく、本人にも改善意識は無い。
4:容姿での評価経験は乏しいが、本人の改善意識がある。
5:平均的な容姿であり、状況によっては評価されることもある。
6:平均的な容姿だが、本人の改善意識により改善傾向にある。
7:学齢期から容姿を評価されることが度々あり、自身もそれをある程度認識している。
8:容姿への高い評価に加え、本人の改善意識の高さがうかがえる。
9:特に優れた容姿を持ち、相対する人からはほぼ好意的な評価を受けている。
10:優れた容姿から、既に芸能・ファッション業界で一定の評価を得ている。

「家庭環境」

 当実例内での「家庭環境」とは、主に家庭内での円滑なコミュニケーションや経済状況、文化的累積を総合的に表しています。不登校・引きこもり問題において、家庭環境は重要なパラメタとなるため、上記要素の包括評価は無理があるのですが、ここでは便宜的に総合評価しています。

1:親子仲は口もきかない程険悪であり、家計が維持出来ない程経済状況が悪く、親は高等教育への関心がほぼ無い。
2:親子仲は険悪であり、経済状況も悪いが、親は高等教育を否定することは無い。
3:必要なことに限った限定的な会話のみで関係は悪く、経済的にも安定はしていないが、高等教育は否定しない。
4:最低限の会話はあり、平均的な経済状況で、高等教育には最低限肯定的である。
5:日常会話はするが、突っ込んだ話はしない。平均的な経済状況で、高等教育には好意的である。
6:親子関係は日常会話のみだが、経済面での困難は無く、高等教育に好意的である。
7:日常会話は円滑で、たまに込み入った話もする。経済面での困難は無く、教育姿勢も前向きである。
8:日常会話は円滑で、親子間の相談は容易である。経済面では余裕があり、要所要所に知性が感じられる。
9:打ち解けた関係であり、経済的にも裕福で、日常生活においても高度な素養がうかがえる。
10:家族間のコミュニケーションは豊富かつ富裕であり、家庭には高度に洗練された文化的素養がある。

「教育環境」

 当実例内での「教育環境」とは、主に中・高等学校や塾その他(場合によっては、かつての在籍学校)の環境水準を表しています。中核は、教員の指導水準に加え、クラスメイトの素行、教育水準をその要素としています。学校環境も、不登校・引きこもり関連では重要なパラメタとなるため、上記要素の包括評価は無理があるのですが、ここでは便宜的に総合評価しています。

1:所謂教育困難校であり、教員の意識も低い上、クラスは完全に崩壊している。
2:教育困難校でクラスは崩壊しているが、最低限教員の意志は感じられる。
3:教育困難校ではあるが、教員と学生との関係は最低限維持されており、崩壊はしていない。
4:中堅校以上だが、教員の意識が低めで、クラスの治安は決して良くない。
5:中堅校以上で、教員の指導も平均的に機能している。たまにトラブルはあるが、基本的には大過無い。
6:かなり良く機能した中堅以上の学校で、教員の意識も高い。トラブルは発生するが、対処はされている。
7:上手く機能した中堅以上の学校で、教員の質も学生の意識も相応に高く、つまらないトラブルは少ない。
8:上位の進学校で、基本的な問題はほぼ無いが、進路面での問題だけが散見される。
9:上位の進学校で、基本的な問題はほぼ無く、進路面でのトラブルはあれど、概ね無理なく解消されている。
10:上位の進学校で、生活・進路両面において円滑に運営されている。教員側は学生に対して最低限の補佐役を自認しており、学生もそれを認めている。

「青年期の課題」

 当実例内での「青年期の課題」とは、主に10~20代のモラトリアム期間における自己肯定感確保の程度を表しています。大雑把には、当人の感じる「余裕」の程度と言い換えても差し支えありません。

1:自我の崩壊に近い状況で、日常生活の維持は不可能であり、入院が前提となる。
2:円滑な生活を行うだけの余力は無く、さりとて具体的解決策の無い手詰まり状態である。
3:最低限の活動は行っているが、著しく低い自己肯定感に押しつぶされそうになっている。
4:表面的には円滑に見える日常だが、目に見えない焦燥感を常時抱えている。
5:日常生活に問題は無いが、ふとしたときに漠然とした不安感に襲われる。
6:基本的な活動には支障は無く、不安が無いでも無いが、誤魔化すだけの手段がある。
7:自我に対する問題は無いでは無いが、対話や書籍での対処手段がある。
8:自我に対する問題は無いでは無いが、対話や書籍での対処手段があり、既に成果を実感している。
9:自身の問題はほぼ全て解決しているが、他者への寛容を今後の課題としている。
10:過去・現在・未来含め、今ある自身と他者を大きく許すだけの度量と素養がある。

 

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