不登校・引きこもりからの大学進学塾

不登校 引きこもり→医学部受験組が気をつけていること ~英語編1~

受験英語の成長がピタリと止まる原因について説明します。

A period of rapid social and economic change is bound to be accompanied by confusion and doubt about existing values, institutions, and practices.  The inability of people to find satisfaction in accepted modes of behavior causes widespread questioning and searching examination.

「社会や経済が急激に変化する時代では、必然的に既存の価値や制度、慣習に対する混乱や疑義が伴うものである。従前の然るべき行動様式を人々が甘受出来ないがために、疑惑は広がり、徹底的な検証が加えられることになる」

大阪大学の入試問題より

 どういうわけか、共通テストで120~150点前後までは進むものの、その後ピッタリと成長が止まり、どれほど努力し時間をかけても、成績が微動だにしないどころか、寧ろ低下を招く気の毒な子達が少なからず存在します。

近年の英語出題動向

 他の科目同様、英語も2021年度からセンター試験と入れ替わる形で共通テストがスタートしました。変更点は多々ありますが、ハイライトは以下の二点、即ち、

1:アクセント・文法・整序英作が廃止され、リーディングとリスニングのみに
2:リーディング:リスニング=1:1の配点比率に

と見て大筋問題無いでしょう。

 賛否はありますが、個人的にはこの変更は好ましいことだと考えています。アクセント問題については、兼ねてより指導側・学生側問わず批判の対象になっており、仮に東大理三受験生でも、コスパの観点からほぼ放置(運が良ければ満点、多少外しても196~198)になっていましたし、文法についても、一部に時代遅れの問題が出題されるなど、実情にそぐわない状況が続いていました。読解の総量を増やすと同時にリスニング比率も上昇し、学習スタンスがより実用的な方向にスライドしたのも、学生の社会人後の実用を見据えての設定と思われ、制作者側の誠意と熱意が読み取れます。

後になってから判明する英語力格差

 一方、時を同じくして「中堅層の学生が上位層に食い込めない」というトラブルが散見されるようになりました。かつては、「中堅国公立理工系やMARCHレベルが確保出来たので、ちょっと頑張って東大や東工大、医学部や早慶を狙ってみる」のような話は特に珍しくも無かったのですが、最近は少なからぬ受験生の間で、この2者間に目に見えない大きな壁が発生しています。特に、共通テストの英語が150前後を上限に全く動かなくなると同時に、2次試験でも上位層への階級上げが遅々として進まないケースが度々見られ、中堅層にとって大きな負担になっています。

 意外なことかも知れませんが、この変化を生み出した最大の原因を探ってみると、他ならぬ新形式の共通テストに行き着きます。一見すると、時代に即した好ましい変化をもたらしたかに見える共通テストですが、想定しなかった場所で想像以上の事態が発生している現状を鑑みるに、これはこれで何らかの問題を内包している可能性があります。

 一体、共通テストの何が問題だったのか? それを知るためには、まず英語の主要カテゴリと、各カテゴリ毎の上位層スコア格差について理解する必要があります。

英語試験の主なカテゴリと差のつくポイント

 一部の特殊な大学・学部を除き、現在の大学入試は、

1:英語の基本構造を学ぶ「英文法」(ほぼ差がつかない)
2:1の英文法を利用して、英語を日本語に翻訳する「英文和訳」(差がつく)
3:2の英文和訳を平易な長文にして読み進める「長文読解」(ほぼ差がつかない)
4:3の長文読解を音声認識で処理する「リスニング」(差がつく)
5:1の英文法を利用して、日本語やデータを英語に翻訳する「和文英訳(英作文)」(大きく差がつく)

の5形式に分類されます。( )の部分は、上位層に属する受験生間でのスコア格差を表しています。相互の関係性をもう少し細かくまとめると、大筋以下のようになります。

 図を見ると分かるように、1の「英文法」は全ての中核であり、そこから段階的に上位互換の形式を生み出しています。一般的な進学校の中学段階で英文法が優先されるのは、英文法が全ての形式のコアであり、この点が揺らぐと、後詰めの発展的形式が足場から瓦解するためです。

 次に、上位層の各カテゴリ毎のスコア格差を見てみましょう。決定的に差がつくのは5の「和文英訳」で、これは特に医学部受験では常識です。次が2の「英文和訳」、4の「リスニング」と続き、1の「英文法」と3の「読解」は、分量や存在感の割に格差は発生していません。ただ、これには上位層特有の事情があります。

英語上位層のスコア獲得状況

 平均的な理系上位層の学生は、基本的な文法事項を中学時代から手堅く学習しているため、標準的な英文法で差がつくことはありません。逆に、早慶の文系学部で出されるようなキワモノ系英文法は、学習上のコスパが悪いことから、わざわざ着手する子がおらず(数学の方が遙かに効率が良い)ほぼ全員が放棄するため、こちらも差がつきません。読解については、難易度が高くとも低くとも、上位層ではほぼ全員がそこそこ無理なく解釈し、大きく外すような箇所も乏しい(外すときは全員外す)ため、差がつきません。

 他方の英文和訳は、英文法や基本的な構文の知識を入れただけではダメで、名詞構文や無生物主語、倒置・省略の処理方法、そして何より「副詞(句・節等広義のもの全て含む)」という大きな山場を越えなくてはなりません。結果、どうしても添削の必要性が出てくるのですが、この添削の総数がスコアと大まかに比例するため、特に難易度が上がると少なからぬ程度で差が開きます。リスニングはまた別の理由があり、出題する大学としない大学とでバラツキがあることから、仮に医学部と言えど、早期から対策を行っている子と後手後手に回った子とでは必然的に差がつきます。

 そして最後の英作文。これは英文法の完全な上位互換で、中学1年から高校3年まで、基本的な文法はほぼ穴無く確保していることが大前提の上、指定型英作に自由英作、図表の読み取りにそれぞれの表現方法と、非常に幅広い対策が求められます。しかも、その上で記述が適切かチェックするための添削が必要となりますので、英文和訳以上の負担感があります。(無論、スペルミスも許されません。)結果的に、上位層でも決定的な差がつくことになります。

 つまり、上位層で差がつくのは、英文法を基盤とした「英文和訳」と「和文英訳」、読解系学習最終段階で、到達までに時間のかかる「リスニング」の3項目が中核であり、英文法で大きな穴のある学生には、最初から勝ちの目がありません。

共通テスト英語での実情

 一方、現在の共通テストで出題されている形式は、3の長文読解と4のリスニングのみで、1の英文法や2の英文和訳,5の和文英訳はそもそも最初から存在しないため、上記のような上位層格差は発生しにくくなっています。無論、3も4も1と2をベースとしており、全くの無知なら3も4もままならないのは事実ですので、3と4内部に1や2を内包し、直接問うことはせずとも、間接的に評価していると考えれば、特段無茶なこととも言えません。ただ、最低限「誤読」でない程度の読解が出来れば、厳密な学習は必要とされず、「何となく学習していても、何となく点になってしまう」設計になっているのは事実でしょう。

 しかしこの結果、大半の中堅層の学生は文法を軽んじるようになり、即席的な長文読解とリスニングに学習を傾斜させました。無論、この傾斜が後の絶望を生むとは、知る由もなく。

中学一年から発生する英語力の分岐

 簡単なサンプルを出してみましょう。以下の文章を読み、日本語に変換してみて下さい。内容は中学一年の問題で、特に難しいものはありません。

6:The train for Kyoto leaves Tokyo at noon.

 ここでのテーマは、形容詞として機能する前置詞句です。一般に、副詞として機能する前置詞句は、事細かに修飾ー被修飾関係を考える必要はなく、寧ろ下手に考え始めると、重要な形容詞→名詞の修飾関係が疎かになるため、私は推奨しないようにしています。(これは、副詞句・節を含む副詞全般に言えることですが。)

 正しい訳と文章の構成は、以下のようになります。(訳の順序は○番と記載しています。)

7:「京都行きのその電車は、正午に東京駅を出発します」

 形容詞と名詞は、前置にせよ後置にせよ、特殊なケースを除いて「形容詞(先)→名詞(後)」の訳順になります。その後は、Sに続き、文章の後方から順に訳すのが基本となります。余程おかしな構成で無い限り、この手順でほぼ無理の無い日本語が生成されます。

 一方、文法がぞんざいになっている学生に同じ質問をすると、大筋以下のような回答が来ます。

8:「その電車は正午に東京を出発して、京都に向かいます」

 この回答は、大意としては間違ってはいないのですが、恐らく形容詞→名詞の修飾が読み取れないまま、「Sの次は文章の後方から訳す」という中学生時代の流れをそのまま踏襲しているものと考えられます。そこそこ読解力がある子でも散見されるパターンですが、文型の概念があるだけ、まだ救いようがあります。

9:「その電車は京都に向かって、正午に東京を出発します」

 この回答も、大意としては間違っていないのですが、とりあえず主語は理解しているものの修飾関係が分からず、8と同様に前置詞のforを動詞っぽく繕って、何となくそれっぽい訳にしたパターンです。こちらも頻度が高めです。

10:「その電車は京都を出発して、東京へ正午に行きます」

 この回答は確実に0点で、そもそも事実関係からして合っていません。推察では、それぞれの単語を日本語にバラバラに変換し、想定されうる「あり得そうなシチュエーション」を頭で想起し、それらしい日本語にしたパターンですが、全く意味の無い最悪のタイプです。所謂「英語がダメな子」の大多数が、この形態を取っています。

手堅い英文法力の上位層と揺らぐ中堅層

 上記の例を踏まえた上での経験則ですが、東大や医学部、早慶他上位層の群に食い込む子達を見ていると、特殊な事例を除いてほぼ確実に7の回答を手堅く出して来て、8~10のパターンに陥るケースはまず見ません。恐らく、彼等は中学時代から基本的な文法の学習を反復しており、訳の定石が徹底的にすり込まれているため、定石ピッタリのケースでは他の訳など最初から浮かびようがないのでしょう。

 一方、地方国公立やMARCHレベルになると、8、9のケースが目に見えて増えてきます。大意としては間違って無いものの、定石の手順が疎かになっているため、スコア面で一段階劣勢になります。とりあえず意味が取れていれば問題無い共通テストでは表面化しませんが、厳密な英文和訳が求められる国公立の上位群に挑むようになると、途端に成績が下がり、地方国公立やMARCHレベルで頭打ちになります。

 尚、それ以下の群になると、10のケースが特に珍しくも無く、中学一年のレベルでさえ完全な誤読が混じり始めます。この群に転落している場合、一度中学生のレベルに立ち返り、基礎の反復練習を行った方が遙かに効果的です。

 今回の例は中学一年で学ぶシンプルで簡単な例ですが、似たような課題が全ての学年で雑多に発生し続けるため、最終的には途方も無い格差が生み出されます。

全ての努力が無に帰す、恐怖の「フィーリング英文読解」

 これまでの指導経験から、私はこの8~10を「フィーリング読解」(特に法則も手順も無く、何となく日本語の対訳をそれっぽく繋げて解釈している「お気持ちだけ」の読解)として、指導の際に強く戒めています。とりわけ10は最低の状態で、どれほど努力を続けても一向に成果が出ず、学習自体が無意味です。この状態を維持したままの学習なら、寧ろやらないで遊んでいた方がまだ有意義でしょう。

 話を戻しましょう。2021年度の共通テストから、この「フィーリング読解」にハマった結果、地方国公立・MARCHレベルで成長が止まり、その上に上がれなくなる子達が明白に増加しました。センター試験の時代では文法での問いかけが存在したため、最低限の文法意識も残っていたのですが、最近はそれが目に見えて減少し、酷いケースになると、指導側が「多読・速読」を理由に、雑な読みを積極的に推奨することがあるようで、結果、多少の修正で成長を取り戻せるはずのレベルの子達でも、驚くほど成果が出なくなりました。

 以下は、彼等に対してヒアリングを行った結果ですが、このトラップにかかるまでの経緯は至ってシンプルです。

11:共通テストは読解中心なので、中学段階での文法学習が疎かになり、「とりあえず意味が大体取れていればOK」が常態化する(この段階でかなりの誤読が混じる)
12:そこそこ勘の良い子は、それでも多少はスコアになるため、単語だけを学習し、それらしいフィーリング読解を続けたまま大学受験を迎える
13:しかし、フィーリングでも何とかなるのは地方国公立・MARCHレベルまでで、そこから先は厳密性が要求される点に気付く
14:一方、英文法の基礎学習をほぼやっていないため、補足での対処が出来ず、同時に共通ではそこそこのスコアが取れるため、学習方針の転換に前向きになれない
15:結果的に、上位層へ食い込むことは諦め、地方国公立・MARCHレベルで受験を迎える

 彼等の話を聞いていると、これは試験システムと指導側の都合に踊らされただけの気の毒な結果でしか無い現実に至るのですが、修正は容易ではありません。10のように、壊滅的に理解していないケースなら、まだ「本当に最初から徹底的に復習しましょう」と提案して再起も促しやすい(実際に必要な期間はせいぜい半年前後)のですが、8や9のタイプはなまじ理解が進んでいるが故に、「本当に最初から徹底的に復習しましょう」と言われても提案に乗る子は半数もいません。期間としては三ヶ月も必要無いのですが、これまでの中途半端な成功体験が、再生学習に二の足を踏ませるのです。

英語力要請の暫定的総括

 以上のように、上位層と中堅層は、文法学習に対する意識に決定的な差があります。前者は、試験システムがどうあれ、過去重要とされてきた項目を愚直に学び続けた一方、後者は表層的な試験システムの変更に付和雷同し、要諦を放棄してお手軽な成果に飛びついた。後者が前者に歯が立たないのは、言うまでも無いことでしょう。

 センター試験の時代は、文法学習のベースが最低限維持されていたため、そこを足掛かりにして、中堅層から上位層へのアップグレードが比較的容易でした。しかし、共通テスト以降、文法学習のベースは時代遅れの産物とされ、目先のスコアを追うがあまり、上位層に進む足掛かりを放棄する例が増えました。安易な放棄は、本来ならより高いポジションに立てる子達からその可能性を奪い、格差の固定化を助長するに至りましたが、恐らくこの傾向は今後も続くでしょう。

 不登校 引きこもり業界でも、長期化して破綻しているのは、大半が後者のような浅はかな発想に飛びついたケースです。大した才覚も無いにもかかわらず、他人からの助言を見下し、上っ面だけの利益に飛びついて死を早めた引きこもりは、特に珍しい存在でもありません。浅はかな思考は学習にも表れますし、長じては、その人生観にも繋がってきます。

 特異的な才覚を持ち合わせた天才は別にして、せいぜい凡百の秀才止まりを自認しているなら、偉大な先人の知恵を有効活用する以外に勝ちはあり得ません。システムがどう変化しようとも、歴史の試練に耐えた成果は、素直に吸収するのが利口というものですし、自分だけでなし得た評価など、所詮高が知れています。手遅れになる前に、謙虚な姿勢で基本に立ち返るようにしましょう。

 では、具体的にどのような形で学習の誤りを修正すれば良いのでしょうか? 次回は、それをテーマとし、停滞に悩む子達への一助としたいと思います。

参考:「不登校 引きこもり→医学部受験組が気をつけていること ~数学編~

“不登校 引きこもり→医学部受験組が気をつけていること ~英語編1~” への1件のコメント

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