不登校・引きこもりからの大学進学塾

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受験や浪人で不登校になった子をどうするか? ~勉強の工夫だけで引きこもりが改善する事例~

「予備校開始の4月は元気ですが、6月頃から段々行かなくなり、夏期講習はつまみ食い。
10月以降は一度も行かずにそのまま受験。それで案の定入試で落ちて、4月はまた元気。
うちの息子は、毎年毎年それの繰り返しです」

受験浪人引きこもりの相談事例

予備校不登校という恒例行事

 今や不登校なる現象は特段珍しいものでもなく、どこの学校でも小・中学校ならクラスに最低一人、多いと五人前後は常時存在しています。高校中退からの通信制転校も日常的な話で、もはや不登校を認識していない人の方が珍しくなってきました。

 一方、不登校が話題になる何十年も前から、事実上の不登校が存在し続けるおかしな環境が二つだけありました。「大学」と「浪人生予備校」です。

 2000年以前と比較すれば、現在の大学生は劇的に勉強するようになりましたが、それでもコマ数の少ない私大文系のスカスカっぷりは健在ですし、一年生で最も勉強せずに遊んでいるのは医学部医学科の学生です。任意性があるが故に、事実上の「公認不登校」とも言える状況が大学にはあり、それについて殊更咎める人はそう多くありません。

「まあ、中退だけはするなよ? 適度にサボって遊ぶのが大学生ってもんだ」

という意識が大人の側にもあるのと同時に、入学は難しく卒業が楽な日本の大学故に、人生の難関の一つを突破した余裕も相まっているのでしょう。

 一方、その最大の関門を突破していないにもかかわらず、大量の不登校を生み出すのが「浪人生予備校」です。最大手の駿台予備校にせよ河合塾にせよ、今でも秋口になると出席率が半分以下になる授業はザラですし、特にそれに対して周囲がアレコレいうこともありません。懸念は誰もが共有しているものの、その総数があまりに多い点に加え、「勉強しないのは自己責任」がアプリオリ(前提又は与件として疑うべきでないこと)の空間においては、不登校の問題視自体が見当違いなのです。

 ただ、難関を突破し、大学に入学してからのモラトリアムなら何ら問題無いのですが、突破前からモラトリアムに引っかかると少々厄介です。

2通りある予備校不登校生の主張「自分で勉強する」

 浪人生が予備校に通わなくなるときに使うフレーズの代表格が、「授業の意味が無いので、自分で勉強する」です。

親「最近予備校行ってないけど、大丈夫なの?」
子「自分で勉強した方が効率的なんだよ」

や、

学生A「あの先生の授業意味無いよな」
学生B「無い。絶対に自分で勉強した方が速い」

等が分かりやすい例でしょうか。

 一方、この「授業の意味が無いので、自分で勉強する」の実態は2通りあり、同じ言葉で表現されていても、実情は全く異なります。

 一つは、「当人の能力が十分に高く、授業の内容はほぼ全て把握しているので、自分で勉強した方が効率的」という群で、事実この場合は自主学習に重きを置いた方が効果的です。「(授業のレベルが低すぎて時間の無駄になるので、)自分で勉強する」という、優秀な人間特有の合理的判断の結果として出力される言葉で、何ら反駁の余地はありません。

 ただ、一般的な予備校はスタート段階で学力順にクラス分けされているため、このような事態は発生しにくく、実例としては、「予備校の内部事情が良く分からず、好成績だったにもかかわらず、実力よりも遙かに下のコースを選んでしまった地方在住の上京組」や、「クラス分け試験が受験出来なかった、或いは体調が悪くて変なクラスに配属されてしまった場合」に限定されます。また、学習領域の全体像が幅広く把握出来ているならそもそも浪人しないため、東大や京大、医学部、私大なら早慶狙いの最上位層以外では、事実上ほぼ発生しないというのが実情です。「自分で勉強する」と主張する群の中では、多く見積もっても5%程度の存在でしょう。

 一方、圧倒的多数を占める残りの95%が、「当人の能力が授業に全く追いつかず、授業に参加しても成長が見込めないため、自分で勉強せざる得ない」群です。こちらのルートに陥ると、ほぼ確実に成績は落ち、良くて平行線、最終的には勢いのある現役生に抜かれて、前年度とさして変わらない成果しか出せません。

 彼等の言う「自分で勉強した方が良い」という言説は、能力不足を原因とした落ちこぼれ以外の何物でも無いのですが、優秀な5%の「自分で勉強する」姿を片目で見ているためか、彼等の姿勢に仮託しつつ、同時に惨めな自身をカモフラージュ出来る丁度良い口実になっています。同時に、予備校無視で学習の裁量権が全て自分一人に移るため、無限にサボることも出来る一方、まがりなりにも「勉強する」と言いつつそれらしい姿勢も見せるため、家族が口を極めて咎めるのも困難です。能力的に足りておらず、上手い解決策が無いまま現状打開にもがき苦しむ一部の浪人生にとって、「自分で勉強する」というフレーズは、親も友人も先生も、そして何より自分自身さえ誤魔化し、チョロまかすことの出来る願っても無い魔法の言葉なのです。

 とは言え、実際は何ら学習していないのですから、ツケは早々に回って来ます。一年に満たない浪人生活においてツケに気付いたときには既に手遅れで、その頃にはもう授業など聞いても何ら理解出来ないレベルにまで転落してしまっています。逃げ場の無さ故、ますます「自分で勉強する」に固執するようになると、また来年の浪人が見えてきます。一般的には、浪人生が「自分で勉強する」と言い出したら、既に状況はかなり悪いと判断した方が良いでしょう。

何故予備校不登校が生まれるのか?

 ところで、特に怠惰でもなく熱意もあるのに、「自分で勉強すると主張して」失敗を繰り返す浪人生の約75%には、「高校在籍時に基礎学力の養成をサボっていたため、予備校の授業が理解出来ていない」という共通点があります。(特にこれは下積みに長い時間が必要となる数学と英語でより顕著です。)

 標準的な予備校の、特に難関大学向け講座は、高校における十分な基礎学力を前提として授業が進みますが、全ての学生が高校時代に真面目に授業に取り組んでいたとは限りません。高校時代の積み重ねがない学生は、概して教科書や教科書傍用問題集のような基本学習を飛ばしており、ベースが無いまま予備校での難しい授業に向き合うことになります。

 ただ、予備校で扱う教材を見てみれば分かりますが、例えば、50分の授業で扱える数学の問題はせいぜい大問2つ分、小問に分けても6つが限度で、それ以上は時間上の制約から実施が困難です。基礎的な内容を扱う講座もあるにはありますが、予備校の学習スパンは基本一年単位で、高校のような三年単位での学習は想定されていません。そのため、基礎系講座でさえどうしても急ぎ足になり、充分な説明がなされないまま、発展的な課題に繋げざる得ない状況が続きます。

 予備校に通っている学生なら、その大半は大学に進学しようと最低限の熱意は持っているはずですが、基礎力0の状況ではその熱意が成果に結びつくことはありません。熱意がありながらそれが実を結ばないのは、彼らのやる気不足や能力不足が原因ではありません。ただ、ゆっくり着実に基礎力を養成する時間が無い点、そしてその深刻さを彼等が認識出来ていない点が原因なのです。

予備校不登校・引きこもりになった際の家族による対処法

 上記のように、予備校不登校の直接的な原因は、基礎学力の不足にあります。目の前で展開されている授業が充分に理解でき、自分の血肉となっている日常を実感しながら、それでも尚予備校をサボろうとする学生はほぼいません。大多数は、授業を理解出来ないからサボるようになるのであり、この点を勘違いすると対処も遠回りになってしまいます。

 予備校不登校は、未来への絶望感と綺麗に正比例して悪化し、最終的に引きこもりへと繋がります。友人関係や恋愛事情など、他者を介在する引きこもりならまだ人生の糧にもなりますが、学習不振程度で発生する引きこもりなど、何の涵養にもなりません。ただの時間の無駄であり、人生の浪費です。

 予備校不登校・引きこもりになった場合、まず一度予備校の進度は置いておいて、現段階でどの基礎部分に穴があるかチェックして、その穴埋め作業を最優先に行うようにしましょう。学習が原因の引きこもりは、学習方針の転換だけであっさりと解決します。対策の範囲を無闇に拡大することなく、ピンポイントで叩くようにしましょう。

 逆に、彼らに対してやってはいけないことは、予備校不登校・引きこもりの原因を、やる気のなさや能力不足に帰結させることです。やる気が無いから、能力が足りないから予備校に行かなくなるのではありません。基礎力が無いからやる気が出ず、現在の授業で能力不足が指摘され、それが結果として予備校不登校を誘発するのです。予備校不登校における原因の圧倒的多数は、基礎力の欠如だと認識しておきましょう。

 家族側としては、どうしても結果部分を叩きがちですが、因果関係を取り違えてしまうと解決するものも解決しません。まずは現状を糾弾するのではなく、基礎学力に穴がないか、丁寧な総点検をしてみてください。おそらくこれだけで。 予備校不登校の8割近くの問題は解決するはずです。

 一方、基礎の重要性が分かっても、その具体的な対処が分からない場合には、一度それだけに特化した解説を受けた方が、何年も無意味な浪人を繰り返すよりは最終的に安く仕上がります。例えば、CARPE・FIDEMでは以下のような講座がありますが、これは上記のようなトラブルに特化して対策を行っています。

参照:「不登校中退予防講座概要

「学問に王道無し」ではありませんが、受験勉強程度の話でも王道はありません。地道に、可能な限り最速で進めるにはどうしたら良いか検討してみるようにしましょう。

予備校不登校を生まないための事前対策

 発生してしまった場合は、残念ながら後手で対処するしかありませんが、予防出来ればそれに越したことはありません。では、予備校不登校・引きこもりを生まないようにするためには、どうしたらよいのでしょうか?

 まずは上述したように、「入学前の段階で充分な基礎学力があるかどうかチェックすること」が大切です。完璧である必要はありませんので、最低限教科書と教科書傍用問題集の基本問題がスラスラ解けるか確認してから予備校の講座を選ぶようにしましょう。仮に難関大向けの講座だとしても、これが出来ているだけでかなりの問題が解決します。逆に、基礎力が無いのに難しい講座は受けても、自己満足以上のものは何も得られません。まずは、自分の現在地を正確に把握するようにしましょう。

 基礎力を確認したら、次に気をつけるべきは「予備校入学段階で自分の実力を遥かに超えた講座を選択しないようにすること」です。実力よりもやや上程度ならば、基礎の補足を同時並行して進めることも出来、大問題にはならないのですが、実力と講座レベルの間にあまりに大きな乖離があると、基礎の埋め作業を並行して行うことが出来ません。選んだ瞬間から受験失敗が確定してしまいますので、くれぐれもご注意を。現段階で基礎力不足が明白なら、それに相応しい講座を、逆に余裕があるなら、積極的に難関大学向けの講座を狙っていきましょう。

 3つ目は、「現在の実力と最終目標大学との距離を確認し、本当に一年で仕上がる距離感なのかどうか確認すること」です。例えば、高校の基礎学力0の状態から、一年で医学部合格はほぼ不可能です。かなり処理能力の高い子でも、ベースが0なら平均的には二年かかりますので、その場合は最初から医学部向けの講座を取るのではなく、最初の一年目は基礎学力養成を前提とした優しめな講座をメインとし、二年目から本格的に医学部受験向けの講座を着手する方が安全です。要は、上る階段の段差を緩くして、上りやすくするのです。人間の成長にはある程度の相場感覚があり、それ以上のものを求めても無理なものは無理です。相場が分からない場合には、実際に学習指導している先生に確認し、無理な設定をしていないかチェックして貰いましょう。

 最低限この三点を抑えるだけで、予備校不登校・ひきこもりはかなりの部分が回避出来ます。現段階で当該トラブルが発生している場合には、三点のどこに問題があるのか確認し、適宜修正するようにしてみて下さい。

 折角やる気も熱意もあるのに、空回りして成果が出ずに引きこもりになってしまっては、当人も家族も気の毒ですし、優秀な人間が引きこもり化して失われてしまっては、社会全体にとっての損失にも繋がります。やる気と熱意に相応しい成果を手にし、無事来年度の合格を勝ち取って欲しいと思います。

不登校・引きこもり大学診断の公開

 若干デバッグその他が甘い可能性がありますが、先日「不登校・引きこもり大学診断」のページを公開しました。

 ここでは、

1:勉強から遠ざかってしまった時期
2:1のときの大雑把な学力
3:希望先大学
4:現在の年齢
5:人付き合いの巧拙

の最大5項目を入力するだけで、

6:必要となる学習期間
7:CARPE・FIDEMでの必要講座
8:7における総費用
9:進路推奨度
10:就職安定度
11:その他注意点

の判定が出来ます。

 まだ製作途中のベータ版で、今後も段階的に項目を追加する予定ですが、一定の規模が確保出来たため、とりあえず一度公開致します。不具合や実情に合致しない部分がございましたら、その旨ご連絡頂ければ幸いです。

2025年度新規受付について

2025年春からCARPE・FIDEMへの参加をご希望の方へ

 関係者の皆様方には、日頃よりCARPE・FIDEM LLCへのご愛顧を賜り、まことにありがとうございます。

 現在、CARPE・FIDEM LLCでは2025年度開講予定講座の受付を行っております。今年度から新規参加をご希望の方は、以下を参照の上お申込み下さい。尚、大学受験理系基礎クラスは早い段階で埋まる傾向にあります。ご注意下さい。

 ご不明な部分は、「よくあるご質問」をご確認の上、お電話でのご相談をご希望の際には、

03-3524-7122(代表電話)

をご利用下さい。「お問い合わせ」からの個別相談も承っております。

予約受付中の講座一覧

講座名授業料授業開始日空き状況
中学範囲速習5,800円/時
(平均100,000円/月)
随時可能25年度受付中
大学受験理系基礎138,000円/月3月1日~25年度受付中
残3
大学受験理系応用128,000円/月4月1日~25年度受付中
医学短期集中
(事前準備)
149,000円/月随時可能残1
医学短期集中
(スタ・イン)
298,000円/月~3月1日~25年度受付中
不登校中退防止5,800円/月~随時可能残1
共通テスト国語35,000円/月3月1日~25年度受付中
共通テスト倫・政5,800円/時随時可能25年度受付中
少人数個別制5,800円/時随時可能残3
医療論文面接5,800円/時随時可能残1
◯:空有り  △:過半数  残n:残n席  要相談:状況に応じて受入

※1:現在ウェイティングリスト順にご案内していますが、ご事情によっては受け入れ可能な場合もあります。詳細は以下までお問い合わせ下さい。

参照:新規参加希望

新設教室の概観

新規参加・資料請求・お問い合わせ

 新規参加の方は、「新規参加希望」よりお申込み頂き、面談・見学・体験授業を経由し、特に大きな問題が無ければ正式参加となります。

 また、「資料請求」のお申込みや、「お問い合わせ」からのご相談も承っております。

 以上、ご確認下さい。今後とも、CARPE・FIDEM LLCへのご理解、ご協力賜りますよう、心よりお願い申し上げます。
 

CARPE・FIDEM LLC
https://www.carpefidem.com
〒101-0032
東京都千代田区岩本町1-13-5 SSスマートビル2階
Tel:03-5829-4023 Fax:03-6866-9455

2023年度冬期休業期間のお知らせ

 平素は格別のご高配を賜り、まことにありがとうございます。

 改めまして、2023年度冬期休業期間について、以下お知らせ致します。

休業期間:2023年12月29日(金)~2024年1月3日(水)

 尚、自習室は休業期間を通じ、全て通常通り開室しております。また、大学受験理系基礎・大学受験理系応用の授業は、参加者向けに追って連絡致します。

 ご不便をおかけいたしますが、何卒ご了承いただきますようお願い申し上げます。

「不登校には個別指導が良い」は本当か? ~不登校に理解のある先生が生み出す新たな引きこもり~

不登校生に対する個別指導の実情を解説します。

うちの子は、不登校後は長らく個別指導を受けて大学に入ったのですが、
それから大学に行かなくなり、昨年中退してまた引きこもりました。
よく考えたら、大学に個別指導はありませんよね・・・・・・」

大学中退の相談事例

 不登校業界にいると、「不登校の子が塾に行くなら、不登校を良く理解した先生による個別指導形式が良い」というもっともらしい言説を度々目にします。

個別指導が普及した経緯と現状

 今でも基本的な状況は変わっていませんが、塾や予備校での指導と言えば、数の大小はあれど大教室での集団授業が一般的です。学校の指導形式を援用しているのは明白ですが、現場感覚で言えば「色々と模索はしているけど、他に上手い形式が見当たらないから」というのが正直なところでしょう。

 とは言え、現在に至るまで個別指導が全く無かったわけではありません。講師が家庭を訪問して学習を指導する家庭教師はその代表例で、学生側の移動負担も少なく、質疑応答が即座に行える点から見ても家庭教師は理想的な個別指導の最たるものです。基本単価が割高になり、享受出来る家庭が少数で目立たなかったという事情からその普及率は決して高くはありませんでしたが、学校外教育の一つとして細く長く今でも存在し続けています。

 一方、費用面のネックもあり、大多数の家庭において学校外教育は集団指導が一般的でした。高額な家庭教師をつけることの出来ない大多数の家庭では、マスプロ式集団指導の塾や予備校での学習を所与のものとして、中学・高校・大学の各種受験に備えていました。「家庭教師等による個別指導」=「お金持ちのためのもの」というイメージは、恐らく現在の30代以上では標準的な認識だと思います。

 その後、主に団塊ジュニア世代が経由したマスプロ式詰め込み教育への批判から、学習環境は段階的に小規模化が進みました。最近になって学校の定員上限値が引き下げられたのは、個々人へのきめ細やかな指導と教員の負担削減を期待してのことでしたが、市場原理の機能する塾・予備校業界では、一足先に同様の流れが発生していました。高学歴化に加え、少子化と高齢世帯からの生前贈与等が複合的に絡み生徒一人当たりの教育単価が上昇基調に乗ったことから、多少のコスト高を甘受する環境が生み出されました。駅前の目につく塾・予備校で、家庭教師形式により近い「個別指導」の文言が踊るようになったのも上記のような経緯があります。

集団指導と個別指導の根本的な違い

 以上のように、現在の学校外教育では、集団指導と個別指導が混在する状況になっていますが、両者は狙いとするターゲット層が根本的に異なります。

 実際に両方を受講すれば分かる話ですが、集団授業における情報は「講師→生徒」向きの一方通行で、逆向き要素が入るのはせいぜい短い休憩時間での質問タイム程度しかありません。従って、不明箇所が発生したら自力で対処しなくてはならず、参考書で追加学習するなり周囲の友人に聞くなりネットで検索するなり、何らかの主体的行動が求められるのが前提で、ぼーっとしていても問題解決に繋がる可能性はほぼありません。低コストというメリットと引き換えに、学習上の非効率というデメリットが発生し、そして何より積極性と主体性が求められる形式で途中で脱落すればサポートは無く、そのまま放置されるのが一般的です。よって、元々学習に得意意識がある、或いは自主的な学習が苦にならない学生がメインターゲットです。

 一方、個別指導は、情報が「講師↔生徒」の双方向に行き来する交互通行であるため、問題の解消は適宜可能で、自ら主体的に何かを行う必要はありません。「先生、○○が分かりません」とその場で言えば、ほぼ全ての問題が解決します。参考書も要りませんし、友人に尋ねる必要も無くネットを使うタイミングも乏しいでしょう。高コストというデメリットはあるものの、学習効率の向上というメリットが発生し、同時に積極性も主体性も不要な形式です。仮に理解が及んでいなくとも、都度サポートが受けられ放置されることはありません。よって、学習に苦手意識があったり、そもそも学習が嫌いな学生がメインターゲットとなります。

 個別指導は集団指導に比べて圧倒的に効率的で、学生側での手間が要りません。主体性・積極性0の無気力な子でも、最低限の学習を進めることが出来ます。

何故、不登校に対して個別指導が有効なのか?

 以上のような事情もあり、個別指導は平均的な学校教育から落伍した群に特に有効性が認められています。学習速度に思考が追いつかない」「情報処理の優先順位が立てられない」「とにかくやる気が無い」など、何らかの学習トラブルを抱える学生に対し、講師側が逐次補完指導を行うことで理解度を高めることが出来ます。あまり良い例ではないものの、裏口入学等不穏当な形式で入学した私立大学医学部生に対し、教授陣が高額の費用で個別指導するケースがありますが、これはその具体例と言えるでしょう。(総数は多くありませんが、逆に先天的に高いIQを保持し学校教育に退屈する飛び級前提の学生にも、少人数教育は有効です。)

 先にも述べたように、個別指導のメリットは講師によるきめ細やかな指導と配慮にあります。不登校は必ずしも学業不振を伴うわけではありませんが、学校環境で何らかのトラブルを抱えた不登校経験者にとって、低リスクで学習に向き合える環境は望ましいものであり、その意味では個別指導の意義は馬鹿に出来ません。不登校当事者にとって、個別指導は確かに有効な選択肢です。

 実際、CARPE・FIDEMも開業当時から以下のような講座を用意しており、毎年多くの受講希望者が集まります。この点だけ見ても、個別指導の有効性とそのニーズは決して否定出来るものではなく、不登校当事者への教育環境において、個別指導は必要不可欠なものとなっています。

参照:少人数個別制講座

何故、不登校にとって個別指導は危険なのか?

 その一方で、私は兼ねてより不登校当事者における個別指導の危険性を発信し続けています。

 個別指導は、不明箇所を随時解消し理解を促し学習を効率化する上では何ら問題無いのですが、集団指導と異なり、講師が適宜配慮する「上げ膳据え膳」形式ですから、学生側が積極的・主体的に行動をおこす必要がありません。集団指導なら授業が理解出来なければ近場にいる優秀な子に質問し、そこから交友関係を広げることも出来ますが、個別指導ではそれが見込めません。

 ここ数年は特に、

「不登校の子供が個別指導塾に在籍しているが、塾にいる間は担当の先生以外とは誰とも会話しない。このままで良いのか悩んでいる」
「学校に行っていないので、せめて塾では友人を作って欲しいのだけど、他の子達との交流が無く、交友範囲が広がらなくて困っている」

という話が、CARPE・FIDEMの相談窓口にも定期的にやって来ます。

 このような相談から見ても、学校環境の存在しない不登校当事者にとり、コミュニケーション面での発育と個別指導との相性は、決して良いとは言えません。学習面での進捗に特化しているが故に、学校のような集団指導環境と併用しないと、社会性や交友関係の広がりに支障を来します。特に、大学進学後は友人関係が単位取得上の重要な要点となるため、社会性と交友関係の乏しさは大学での留年確率にダイレクトに直結します。

 同時に、その「上げ膳据え膳」がいつまでも続く訳ではありません。小学校~高校程度ならそのような選択肢も比較的豊富ですが、大学入学後も個別指導が期待出来るわけではありません。個別指導という特殊空間は、あくまで期間限定的なものに過ぎず、当然のことながら、社会人後の個別指導など特殊な事情を除いてあり得ない話です。短期的な躓きに対し、パッチを当てて解消するには素晴らしい形式ですが、それに依存するようになるとその後の教育環境に耐えられなくなります。

「中学から不登校で不登校向け個別指導塾に入りましたが、大学からまた行けなくなりました。授業についていけてないようです」
「不登校支援の個別指導を受けて大学に入学しましたが、授業で一度躓くと、そこから立ち上がれなくなり、退学しました」
「個別指導で上手く行っていたので勉強が得意だと思っていたのですが、大学での集団授業で周囲の子達を見ていると、自分の場合はただサポートが手厚かっただけだったのだと気付かされました」
「大学での勉強って、友人付き合い無いとマジで詰むんですね。受験まで個別ばかりで、友人の作り方分からなくなってて・・・・・・」

 これらの声は、個別指導という「理想的」な環境が故に、主体性・積極性の要素が停滞した結果友人関係の再構築に失敗し、身近な環境にサポーターがいないと何も出来なくなってしまった哀れな不登校当事者の末路と言えるでしょう。

個別指導依存で陥る結末

 不登校における個別指導で最も恐ろしいのが、大学中退です。例えば、高校から不登校で個別指導を受けて大学に入ったとしましょう。個別指導は割高なため、家計における受験関連費用はこの段階で大筋0となります。その後も、大学の入学金や授業料等が重なるため教育にかける費用は当然目減りします。

 無事大学を卒業し、就職して自立すれば何も問題は無いのですが、大学中退となると状況は暗転します。教育にかけられる予算は既に払底しているため、大学進学での挽回は不可能となっており、さりとて就職の道は大幅に狭くなります。不登校・引きこもりからの社会復帰において、大学進学は非常に有効な手段なのですが、中退してしまうと虎の子も失われているため次の打つ手がありません。起業や飛び級他、余程の事情が無い限り不登校からの社会復帰において大学中退は一番やってはならないことです。

 当事者サイドの話を聞く限り、個別指導の問題点は、積極性・主体性の低下とそれに伴う対人関係構築能力の喪失にあります。学習面での効率は上昇し進学は出来るものの、「担当講師以外とはほぼ会話しない」という閉鎖的空間が故にそれ以外の能力値が低下し、結果的に大学で必要となる能力が不足して、退学に追い込まれています。これでは、何のための進学か分かりません。

 日本は自他共に認める先進国であり福祉国家ですので、弱い立場への救済意志は、遍く浸透しています。ただ、それも無条件・無制限で全員に提供出来るサービスではなく、最終的には個々人の一定以上の強靱さが必要となります。10代なら社会復帰の一手段として上げ膳据え膳も有効ですが、20代30代にもなって同じことを要求するような人間は、今後どの時代であっても必要とされないでしょう。

 これは不登校でも引きこもりでも同様です。何らかの事情で躓きそのときは脆弱だったとしても、成長して強く逞しくなり、周囲を支えるようになって初めて一定の評価たりえると私は考えています。よって、脆弱を強靱に転換出来ない指導は無価値であり、個別指導への依存はこの無価値の最たるものです。個別指導が悪いわけではありませんが、そこへの過剰な依存は、当人の能力を押し下げ、家計の体力も奪い、最終的には惨めな引きこもりの再生産に繋がっています。

個別指導は「入口」だけにしておくこと

 以上のように、個別指導は学習面での有効性は高いものの、主体的・積極的な調査作業や対人関係の構築、不利な環境での試行錯誤といった、社会一般で必要となる基礎能力値を奪うため、部分的利用や最初期での導入・活用は問題無い一方、依存が進むと、10年以内に何らかのトラブルを併発する可能性が高くなります。利用する場合には、極力学校環境と同様の集団授業をメインとし、あくまでサブでの補完目的を目安とすると間違いがありません。

 上記のような事情を回避する目的もあり、CARPE・FIDEMにおいては、最初期は個別対応の比重を多めにして、段階的に集団授業の比率を増やしながら「学習効率」と「人付き合い・社会性」の涵養バランスに注意を払っています。集団授業は個別指導よりも割安でコスト面での負担も減るため、不登校当事者と家計の両面においてメリットがあります。経験則的には、最低でも集団:個別=1:1にまで持ち込めれば、大学進学後の懸念は大筋解消されます。集団指導を利用して友人関係を、個別指導を利用して学習効率を確保するのが、現段階での不登校教育ではベストです。

参照:大学受験理系基礎講座
参照:大学受験理系応用講座

 不登校からの復帰で必要なのは、学力だけではありません。寧ろ、不登校経験者であるが故に、力点を置くべきは学力以外の要素かも知れません。不登校から大学進学を検討する際には、この点を必ず念頭に入れるようにしましょう。

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